労働審判とはどういうものでしょうか?
1.労働審判の特徴
(1)迅速な手続
労働審判とは、個々の労働者と事業主との間の紛争を迅速に解決するために作られた裁判所の手続です。いわば当事者が弁護士の力を借りて任意交渉する方法と、裁判所で訴訟を起こす方法との中間に位置するもので、最大3回の裁判所への出頭で結論(審判)が得られるなど「迅速であること」が大きな特徴です。
- 労働審判制度に関する裁判所の説明(ウェブリンク)
- 労働審判法第十五条 労働審判委員会は、速やかに、当事者の陳述を聴いて争点及び証拠の整理をしなければならない。
2 労働審判手続においては、特別の事情がある場合を除き、三回以内の期日において、審理を終結しなければならない。
(2)調停が成立すれば確定判決と同一の効力
最初の出頭期日で調停案が提示され、最終決着に至ることも多く見られます。任意交渉や行政によるあっせんでは全く聞く耳を持たなかった当事者が、裁判所に呼び出されて労働審判官(裁判官1名)や労働審判員(労働専門家2名)から聴き取りが行われ、その日に調停案が提示されると、たちまち態度が変わって調停案をすんなり受け入れるといったことも珍しくありません。調停が成立すると、確定判決と同一の効力が生じますので、訴訟で判決を得たのと同じ結果が得られます。
- 労働審判法 第二十九条
2 民事調停法 (昭和二十六年法律第二百二十二号)第十一条 、第十二条、第十六条及び第三十六条の規定は、労働審判事件について準用する。 - 民事調停法 第十六条 調停において当事者間に合意が成立し、これを調書に記載したときは、調停が成立したものとし、その記載は、裁判上の和解と同一の効力を有する。
- 民事訴訟法 第二百六十七条 和解又は請求の放棄若しくは認諾を調書に記載したときは、その記載は、確定判決と同一の効力を有する。
2.労働審判手続の流れ
(1)申立書の提出、答弁書の提出
労働者側が、
- 不当解雇事件であれば、使用者に対する従業員の地位確認
- 未払残業代請求事件であれば、使用者に対する未払賃金等支払
という請求を認めるよう求める申立書を裁判所に提出します。
これに対し使用者側が、
- 不当解雇事件であれば、自主退職の合意や解雇事由の存在
- 未払残業代請求事件であれば、未払賃金等がない又はもっと少ないこと
などを主張する答弁書を裁判所に提出します。
申立書の提出は、弁護士に相談した後に労働者の任意の時期に行えますが、答弁書の提出は第1回期日までにしなければならず、申立から第1回期日までは1ヶ月から1か月半程度ですので、申立を受けた使用者は、大変短い期間に答弁書を作成・提出しなければなりません。代理人となった弁護士は、事実の分析から証拠の収集・答弁書の作成と、非常に厳しいスケジュールで第1回期日に臨むことになります。
(2)第1回期日(裁判所への出頭、聴き取り、調停案の提示等)
労働者と使用者の双方が裁判所に出頭します。多くの場合、申立書や答弁書を作成した弁護士が代理人として同行します。
- 労働審判法第四条 労働審判手続については、法令により裁判上の行為をすることができる代理人のほか、弁護士でなければ代理人となることができない。ただし、裁判所は、当事者の権利利益の保護及び労働審判手続の円滑な進行のために必要かつ相当と認めるときは、弁護士でない者を代理人とすることを許可することができる。
審理の場所は法廷ではありません。労働審判官(裁判官)1名、労働審判員2名(労働者側と使用者側の専門家)で構成する労働審判委員会と、労働者、使用者(1名または複数名)、それぞれの代理人が参加し、会議室のような場所で審理を行うラウンドテーブル方式と呼ばれる方法が採られます。
第1回期日で聴き取りが進んだ場合、労働審判委員会から調停案(多くの場合、金銭解決の金額)が提示され、当事者を順番に入れ替えて歩み寄りの可能性が探られ、合意に至れば直ちにその場で調停調書が作成されるので、確定判決と同一の効力が生じます。場合によっては3、4時間かかる場合もありますが、1回の期日だけで法的拘束力のある(つまり従わなければ強制執行が可能な)結論が出ることになります。
仮に第1回期日で聴き取りが進まず、あるいは調停が成立しなければ、第2回、第3回の期日に進むことになります。
(3)続行期日、労働審判
事実関係についてさらに審理の必要があると判断された場合、第2回、第3回の期日が行われます。双方の当事者が新たに主張を追加し、証拠を提出する場合もあります。
第3回の期日では、特別な事情がない限り、審理が終結され、労働審判委員会から審判が出されます。これが労働審判手続における結論となります。